衝撃の”air quotes”

僕は、USでPhDをとってポスドクをしたんだけれど、その間、某所にブログを書いていた。今読み返すと恥ずかしい文章満載だ。最近ふと当時の文章を読んでいて、自分でもこれは面白く書けていると思った文章があったので、当時のブログというか日記をそのまま抜粋する。

 2013・11・26(火)

 USで生活し始めて6年目だけけれど、今日、ようやく"air quotes"の本当の意味を理解した。

 話は10年前にさかのぼる。10年前の学部生の頃、サンディエゴあたりで数ヶ月ブラブラしていた。その時に、多くのカリフォルニアローカルの人が、会話の途中で、両手をピースして、頭の上あたりで、ニョキニョキしていた。当時は、あれは一体なんだろう、って思っていた。日本に戻ってから、まわりの友達に、メリケンの不審なピースニョキニョキを言い回っていたくらい、印象に残っていた。自分の中では、何かを強調する時に使っているんだろうな、みたいな感じでとらえていた。で、中西部のPhD時代は、まわりにピースニョキニョキをする人はほぼ皆無だった。唯一、ピースニョキニョキをするのは、コミッティのビルくらいだった。で、相変わらず、僕は、ピースニョキニョキは、「強調」なんだろう、って思っていた。

そして、昨年、カリフォルニアに10年ぶりにやって来たわけだけれど、相変わらず、カリフォルニアローカルな人は、ピースニョキニョキを会話中に多用していた。僕は、何故だか、ローカルな人がピースニョキニョキをするたびに、心の中で嬉しくなっていた。でも、相変わらず、僕は、ピースするのは、何かを強調しているだけなんだろう、って思っていた。今日までは。

 今日、天才が、例のごとく、ピースニョキニョキをした後、ひょんなことから、その意味を僕に説明し始めた。たぶん、僕がピースの意味をちゃんと捉えていないことに、気付いたんだろう。

 で、驚くことに、ピースニョキニョキは、ほとんど例外なく、皮肉をこめた反意語もしくは痛烈な批判、なんだそうだ。ピースニョキニョキは、実は、airquotesと呼ばれて、まさに、"-----"を指で表現ししているだけらしい。たとえば、He is "an expert (ニョキニョキ)"と言えば、意味は、「彼は、いわゆる専門家ぶっているド素人だ」となる。McDonald's burgers are "awesome(ニョキニョキ)"だと、「マクドナルドのバーガーは、グレイとにまずい」となる。これを知って、本当に衝撃をうけた。10年らいの疑問が解決された感じ。天才曰く、airquotesは、カリフォルニアローカルじゃなくて、西海岸と東海岸で使われる傾向にあるらしい。

 僕は、10年間、下の動画のジョーイ状態だった。

下のダンキンドーナツのCMは、一見意味不明だけれど、かなり奥が深い気もする。たぶん。言いたいのは、ダンキンドーナツ以外の"コーヒー(ニョキニョキ)"は、「コーヒーという名の不味い水」という皮肉なんだろう。ちなみに、僕はダンキンドーナツで、何回かコーヒーを買ったことがあるけれど、いつもその液体は、"coffee(ニョキニョキ)"だった。

何かairquotesの本当の意味を知って、興奮して、長々と書きすぎた。

ーーー

ちなみに、airquotesほど時間はかかっていないけれど、"naive"の意味をちゃんと理解するのも数年かかった。よく学会などで、「これは、naiveな質問なんだけれど、ーーーー」っていう質問をする人がいる。僕は、数年前まで、「あー、なかなか繊細で、微妙な質問なんだ」って思っていた。他にも、まわりのメリケンが、「昔は僕はnaiveなサイエンティストだった」みたいなことを言った時は、「あ、繊細なヤツだったんか」みたいに思っていた。だけれど、ある時、"naive"は、「繊細」とかじゃなくて、どっちかというと、「ものごとを知らない初心者」なんだと気付いた。そこに「繊細さ」の意味は、ほぼない(めちゃくちゃかすかにはあるかもしれないけれど)。

ーーー

今日も、ひたすら一日色々作業していた。日中はどうせあんまり論文は読める環境じゃないから、作業をするのが一番だ。夜に、隣りのラボの卵屋さんのDに、ザイスでZ-seriesをとる時に、レーザーとカメラの感度を補正する方法を教えてもらった。さすが、いつも卵を深度深くイメージングしているだけあって、色々知っていた。で、さっそくレーザーとカメラを補正しながら、イメージングすると、かなりイケテいる画像がとれた。これはナイスな方法教えてもらった。

―――

こんな感じでUS時代は定期的に文章を書いていたんだけれど、今ふりかえるとよくやっていたなぁと感じる。孤独だったんだろう。

上の naïveの補足だけれど、naïveは基本的にstupidを丁寧に言っているだけだから、本人がいってもよいけれど、他人が誰かに、”that’s a naïve question”とか言ったらいけない。それは侮辱になる。日本に戻ってきて気づいたんだけれど、時々、学会などで、日本語・英語ともに、それはナイーヴなクエスチョンですね、と言っているのを聞いたことがある。日本語ではナイーヴは許されるかもしれないけれど、英語では間違いなく相手に言ったら侮辱レベルになる言葉っすよ。