ポスドク研究員募集

突然ですが、ラボを立ち上げて以来、久々に正式にポスドク研究員のリクルートをします。今回は、幹細胞と分化細胞のバランスによる組織恒常性の研究を僕と一緒に行う人を募集します。具体的には、最近僕たちが発見したエレボーシスという現象(詳細は聞いてください)を研究する人、もしくは、エクソソーム的な何かを研究する人を募集します。

ラボ立ち上げ以来、スタッフや学生さんに恵まれたおかげで、そもそも研究員の新規募集の必要性を感じなかったのですが、最近、ラボの立ち上げ頃から加入していた学生さんたちが卒業し始めて、ラボはちょっと次のフェーズに入っている気がして、今回研究員を募集しようと思いました。

今、ラボとして色々な知見が集まってきて、タイミングとしては結構よいはずです。個人的には、自分がこれまで行なってきたどのプロジェクトよりも世界を変えうるポテンシャルのあるプロジェクトがあると思っています。一発当てたいというメンタリティの人にぴったりです。というか、確実に一発あたるはずのプロジェクトがあります。学生さんが卒業するので、そのプロジェクトをさらに僕と一緒に開花させてくれる人を募集します。テーマや方向性はある程度決まっていますが、アプローチの仕方は、ディスカッションしながら決めることになります。

バックグランドはそんなに気にしませんが、何か一つでも専門性があればよいです。顕微鏡観察や遺伝学、細胞生物学が好きな人なら最高です。顕微鏡観察などの経験があまりなくても、モチヴェーションが高ければ大丈夫かもしれません。興味がある人は、DMかメールください。採用の時に一番重視するのは、何かを「オモシロイ」と思う感覚が僕と一致するかです。あと、他のラボメンバーとうまくフィットするかどうかも重視します。

ラボとしては論文のアウトプットをする段階に入っていて、今年は今のところ2本出ていて、今2本リヴァイズ中で、2本論文が投稿直前です。今年度はあと3-4本パブリッシュまで持っていくことを目指しています。連絡をくれた人には未発表の話もしたいと思います。誰か、一緒にブレイクスルーを起こす研究をしようぜ。

Src論文

ちょっと時間がたったけれど、Src論文がオンラインに@elife。これは、神戸大博士学生の西田くんがとても頑張ったおかげで完成した仕事。西田くんがいなければ、論文になっていない。西田くんが頑張ってくれたおかげもあって、結構スッと通った印象。ただ、このプロジェクトの成り立ちは例のごとく複雑。

そもそもこのプロジェクトは西田くんのサイドプロジェクトとして始まった。西田くんのメインのプロジェクトは、SrcやRasなどの癌遺伝子でガンを作った時に、それが個体に与える影響を調べる、というものだった。で、これが結構難航した。

西田くんのたぶん研究者(というか、大学院生)としての生存本能で、何かサイドプロジェクトをやりたい、と提案してきて、それじゃあ、癌遺伝子による細胞死に着目してみよう、いうことになった。この時も、細胞死というけれど、真の狙いはネクロプトーシスだったんだけれど、ネクロプトーシス関係ではあんまりうまくいかず、でも、結局、Srcの下流でSlprが働く、ということがわかった。

ここで、Srcの下流でただslprが働くというと、シグナル伝達の重箱の隅をつついてだから何?という感じになるわけで、ここでちょっと、プロジェクトの枠組みを路線変更して、「癌遺伝子は、細胞増殖と細胞死をどのようなメカニズムで同時駆動するのか?」という枠組みに変えた。この枠組みが結構ハマって、研究がうまい具合にまとまった。このプロジェクトはデータが素晴らしいというより、いわゆる”packaging”がうまくいった例。あと、以前在籍していたLynnaがとった栄養関係のデータもかなり役立った。

以下がリヴァイズの記録。

2020年6月

コロナ禍の中、elifeに投稿。

 

2020年8月

2ヶ月待って返事がこず。2ヶ月たっても返事が来なくて催促したら、すぐ返事がきた。正直この論文の評価は自分の中でもどう考えたらよいのかよくわからないところがあって、3人のレヴューアーが基本的にポジティヴで、あ、結構評価されるんだ、というのが第一印象。

eLifeは、3ヶ月以内にできることだけやって、全部のレヴューアーのツッコミに答えなくてよいというのが売りだったはずだけれど、エディターは、コロナもあるし、自分で大事だと思う論点を決めて、無期限でリヴァイズしてね、とのこと(ズコッ)。eLifeのshort reviseを狙っていたのに。。。

 

2021年1月

リヴァイズ実験はやればやるほど、ちょっと微妙なデータが出たりして沼にハマった感があったけれど、コロナ禍の中、なんとかリヴァイズを終了。西田くんが頑張りました。基本全部のポイントに答えるかたちでリヴァイズ。投稿。

 

2021年3月

よくわからないけれど、1ヶ月以上エディターで謎のストップ。催促を何度かして、それでようやくリヴァイズ論文投稿後2ヶ月後に返事があって、あっさりアクセプト。

2017年(4年前!)の焼肉の写真。酔っ払っているNくん。

2017年(4年前!)の焼肉の写真。酔っ払っているNくん。

White論文

ようやくwhite論文がNature metabolismに発表となった。2015年夏にラボを立ち上げてから、僕がコレスポラストの最初の論文。一応、2016年にPlexin論文をファースト・コレスポとして出しているのだけれど、世間的にはこれはラボ発の論文とはカウントされないらしい。理研でもちょっとは実験したのだけれどね。

今回のNature metabolismの論文は、愛着もあるし、自分史上、紆余曲折が最大にあった論文だから、その歴史的なことを書いてみる。

 

2016年 夏

ラボを立ち上げてから1年くらいが経って、色々セットアップなども完了したのだけれど、肝心のプロジェクトの方がいまだ何すっかな、みたいな感じで定まっていなかった。当時の僕はまだ「傷」をやりたい、と考えていた。ちょうど夏の1週間のインターンシップがあり、その時に、傷をつけた時の腸での反応を若いハエと老化したハエでみると面白いかも、みたいな衝動的なプロジェクトを思いつき、2名の学部生にやってもらった(その時の一人が現在ラボにいるIさんです)。結局、実験自体はそんなにうまくいかなかったのだけれど、予想外に、老化したオスのハエで腸幹細胞が増えていることを気づいた。これは、その半年前くらいに出たLPさんたちのelife論文の結果と全く違っていて、彼女たちは、老化するとメスでは腸幹細胞が過増殖するけれど、オスではそういうのは起こらない、と報告していた。インターンシップの実験の結果を見て、オスでも老化したら腸幹細胞増えるやんかー、これってelifeの論文と全然違う、どうしてだろう、と思った。その時に、elifeに “correspondence”として、否定論文を書こうかとも思ったのだけれど、LPさんは老化業界の超大御所だし、ただ否定するだけだと喧嘩売るだけだよなー、とか思って、結局否定論文は書かなかった。それで、ひとまずこのLPさんの結果と違うデータは頭の片隅に置いておくことにした。

2016年 冬

何を血迷ったのか(?)、関学の3回生のSさんが僕らのラボに興味を持ってくれて、3回の終わりからラボに参入してくれることになった(彼女は、結局、3回生の数ヶ月と4回生〜修士2年とラボに3年ちょっと在籍することになった)。Sさんは、当初から老化に興味があるから、老化研究をやりたいと言っていた。老化で何をやるかなー、って考えていたら、半年くらい前のインターンシップの結果を思い出して、あの発見を追求してみるか、と決めた。

 Sさんにまずやってもらったのは、一般にハエのラボで使われているコントロール系統のハエを5種類集めて、それらのオス・メスで腸幹細胞の老化による過増殖が起こるか、を調べることだった。そうすると、興味深いことに、white遺伝子を持っている・持っていない系統で結果がクリアに別れた。whiteを持っている3系統では腸幹細胞は老化に伴って増殖するけれど、whiteをもっていないと増殖しないのだ。そして、elifeのLPさんたちのハエはwhiteを持っていないハエで、僕らがインターンシップで使ったのは、whiteを持っているハエだった。それからアウトクロスやらRNAiやら色々なことをして、間違いなくwhiteあるなしで老化による腸幹細胞の増殖が決まることが明らかになった。結局、LPさんたちのデータは間違っていないのだけれど、その解釈を一般化することに間違いがあったことがわかった。この時点で、また否定論文を書くことも考えたのだけれど、それもなんだか生産的じゃない気がして、whiteが一体何をしているのか追求することにした。

 

2017年-2019年

Whiteが何をやっているのかを追求するために、当時CDBでメタボロミクス の系を立ち上げていたNさんにお願いして、whiteがある系統・ない系統でメタボロ解析を結構軽い気持ちでやってもらった。すると、予想外に、かなり綺麗な結果がでて、whiteあるなしで全身の多くの代謝物に影響が出ることが判明した。White変異体は、トーマスモーガンが100年以上前に初めて単離した変異体で、ハエ業界ではもっとも有名かつよく使われる系統で、この系統に、それほどの代謝物の影響があるのは、結構信じがたかった。この結果を世に発表すると、少なくともハエ業界は衝撃を受けるだろう、と感じた。メタボロデータ以外にも、Sさんの効率的な頑張りで、論文に必要なデータが蓄積された。

 

2019年 7月

USのFly meetingでSさんが発表したり、僕自身学会で発表したり、といろんなとこで発表したこともあって、そろそろ論文にするか、ということで、論文にまとめた。Sさんはその時修士2年。なんとなく、内容がCurrent Biologyっぽいと思って、これは間違いなくレヴューには回るだろう、とタカをくくって、CBにpresubmissionすると、翌日に、興味ねーよ、という返事がきた。正直、まじか、と思った。僕は人生で何度CBからリジェクトされるのだろう(覚えているだけで、4,5回はある)。そこで、elifeに投稿した。Elifeでは無事レヴューにまわり、ちょうど1ヶ月後くらいにレヴューが帰ってきた。結果は、「興味深いけれど、メカニズムが足らないから、リジェクト」とのこと。でも、そこではほとんど失望はなかった。なぜなら、いろんな人からelifeは、3ヶ月以内にできるマイナーリヴィジョン以外は、基本的にリジェクトしてくる、でも、レヴューに回った論文はリジェクトのあとにリサブミットしたら大丈夫なことが多い、みたいな話を聞いていたからだ。だから、レヴューアーたちの指摘に答えたら、大丈夫だろう、と考えていた。

 

2019年 12月

夏から冬にかけて、就活から復帰したSさんが、色々実験をやって、葉酸が大事だということがわかり、メカニズム的なことがかなりクリアになり、論文の内容が非常によくなった。そして、満を持して、elifeに再投稿。分子生物学会前に投稿して、かなりハイテンションな気分になったのを覚えている。そして、クリスマス休暇をはさんで、投稿後一ヶ月後くらいに、まさかのエディターキック。前のレヴューでメカニズムをもっと詰めろ、と言っておきながら、メカニズムを詰めると、そんなメカニズムは当たり前でしょ、的なことを言ってきた。リヴァイズ論文のエディターキックするのに1ヶ月も待たされたことにも腹がたったし、何よりも、かなり新規のメカニズムを提案したのに、そんなの当たり前、みたいなことを言われたのが一番しびれた。このリジェクトは結構メンタルにこたえた。

 

2020年 1月

Elifeのリジェクト後、Sさんと相談して、elifeからPlos geneticsにトランスファーすることにした。僕らは結構この論文に疲弊してきて、もうどこでもいいから世の中に出したいと思い始めていたし、またSさんの卒業時の奨学金関係の書類に間に合わせるためにも2ヶ月以内にアクセプトまでいきたかった。それでelifeのレヴューとリヴァイズした論文をPlos geneticsにトランスファーした。トランスファーなら、リヴァイズ扱いで、即刻一発アクセプトもありえるだろう、と予想したからだ。しかし、蓋をあけてみると、plos geneticsは、elifeのレヴューとリヴァイズ論文をトランスファーしたにも関わらず、ファーストサブミット扱いで、全く新しいレヴューアーが二人登場して、elifeのレヴューアーと全く違うことを要求してきた。一人のレヴューアーはほぼそのままアクセプトという感じだった。驚いたことに、もう一人の若手PIが、実名つきのPDFファイル添付で非常に非常に細かい点を羅列しまくってきた。正直、トランスファーした意味ないやん、と思った。これだけの “pain in the ass”的指摘を実名つきでまるで論文かのようにまとめてきたレヴューアーのメンタリティにも衝撃をうけた。売り込む相手間違ってるよ、と心底思った。この時点で、Sさんの奨学金関係の書類に間に合わないことが確定し、Sさんに、力及ばずごめんなさいと謝った。

 

2020年 2月

Sさんの奨学金の書類に間に合わせるためにelifeからリヴァイズ論文をplos geneticsにトランスファーしたわけだけれど、結局 plos geneticsでも新しいレヴューアーが全く新しいことを非常に非常にたくさん言ってきた。僕は、この論文は、真に新しいことを言っているし、なるだけ visibility のある雑誌に載せるべきだと一貫して感じていた。そういう意味で、こういう言い方はよくないけれど、plos geneticsにトランスファーというのはある程度の妥協だった。そこで、もうSさんも修士で卒業するし、本来目指していたもう少し目立つ雑誌を目指そうと考えた。plos geneticsでは、結局reviseをしないことにして、自分からdeclineした。そして、Current Biology, Cell Metabolism そして Nature metabolismにそれぞれpresubmissionで興味があるか聞いてみた。すると、CBはまた興味なしとのこと(Again!)。Cell metabolismは、興味ないこともないけれど哺乳類のデータがないとおそらくキビシイよ、とのこと。Nature metabolismはかなりの興味をpresubmissionの時点で示してくれた。そういうわけでNature metabolismに本投稿し、無事にレヴューにまわった。

 

2020年 4月

Nature metabolismから返事がきた。3人レヴューアーがいて、2人は結構好意的で、1人は、ネガティヴよりの中立。でも基本的にリヴァイズできそうな内容で、コロナ禍の中、リヴァイズを頑張ることを決意。

2020年 7月

NMにリヴァイズ論文を再投稿。この時は、かなり自信があり、大丈夫っしょ、と余裕の気持ちだった。

 

2020年 8月

リヴァイズ論文に対してレヴューが返ってきて、1人はもうオッケー、2人は、腸特異的に葉酸をみなさい、とさらなる実験を要求してきた。僕は今までリヴァイズのリヴァイズをやったことがなかったので、こんなこともあるんやー、と思った。

 

2020年 9月

リヴァイズ論文を再再投稿。もうさすがに大丈夫だろう、と完全に安心モード。

 

2020年 10月

二度目のリヴァイズ論文は、2人のレヴューアーにまわり、なんと、なんと、2人とも、新しく足したデータはモデルを否定している、と言ってきて、エディターはリジェクト宣言。。。夜の寝る直前にメールを見て、まじでびっくりして、その夜はほとんど寝れなかった。Elifeでリヴァイズ論文がエディターキックになったのと、このNMで二度目のリヴァイズのあとにリジェクトになった経験は、近年でももっともしびれた経験だった。

 

ただ、幸運(?)だったのは、二人のレヴューアーはデータがモデルを否定していると言ってきたのだが、実際はそうではなく、否定はしておらず、どちらかというとモデルをサポートするデータだったのだ。これに関しては、僕の説明不足もあって、レヴューアーが勘違いしたのだ。僕は、データを見ればわかるっしょ、と思っていたことが、他人にはそう自明でもなかったのだ。そこで、リジェクトになった翌日に、怒りの勢いに任せて、エディターに、2人のアホレヴューアーはデータを勘違いしている、こんな理不尽な仕打ちはあるでしょうか(反語)、的なメールを結構カジュアルに書いた。すると、エディターは、それならオフィシャルな “appeal”を送ってきなさい、と言ってきた。そこで、数日かけて懇切丁寧な文章スタイルで、appeal文を書いた。すると1週間くらい経って、エディターから返事があって、なんと、3度目のリヴァイズを許可する、と言ってきた。これには、まだアクセプトにもなっていないにも関わらず、思わずガッツポーズがでた。ちなみにだけれど、アピール書くときに、Yasuさんの呟き(https://molonc.researcherinfo.net/yasu_talk15.html)にとても勇気付けられた。

 

2020年 10-12月

結局3度目のリヴァイズで求められた実験はただ一つだけで、それもなんとか完了することができ、年末年始に論文を完成。

 

2021年 1月

3度目の正直、ということで、3度目のリヴァイズ論文を投稿。たった一つのデータのために、めちゃくちゃ丁寧なリバトルレターを書いた。これでダメならもう仕方ない、と思うくらい、やりきった感はあった。そして、投稿後は、毎日無駄に論文のステータスをウェブサイトでチェックする日々(あれって無意味なのにやってしまいますね)。この論文のことを忘れるためにも、N君の論文のリヴァイズに集中した。そして、月末に、待ちに待ったメールが。もう本当にドキドキしながらメールを読むと、”We’ll be happy in principle to publish it.”やったーーーー。感無量。泣く(泣かないけど)。

 

というような紆余曲折をえて、論文がアクセプトになりました。まとめると、presubmission reject@CBで、elifeでレヴュー後にリジェクト、elifeでリヴィズして再投稿すると1ヶ月後にエディターキック、そのままPlos Geneticsにトランスファーするとファーストサブミッション扱いで新しく2人のレヴューアー登場(1人はクレイジーガイ)でヘビーなリヴィジョン、こっちからrevisionをdecline。それから心機一転でPresubmissionでCBとCMが興味ねぇよとのことで、NMに投稿、レヴュー、再投稿、レヴュー、再再投稿、レヴュー、まさかのリジェクト、アピール、復活(!)、再再再投稿、アクセプト、という流れ。あーしんど。

今回の論文投稿からアクセプトに至るまでで学んだことがいくつかある。

1. リヴァイズの後にリヴァイズがあることもある。僕は、大学院生、ポスドクの時の両方とも、リヴァイズを複数回やったことはなかった。でも、結構何度かリヴァウズすることは一般的なようだ。

 2. そして2回目のリヴァイズのあとに、リジェクトされることもある。

 3. リバトルは丁寧に書く必要がある。これは、共著者のNさんからも何度か言われたのだけれど、君のリバトルは丁寧じゃない、と。でも、僕は USで書いていたときは、両方のボスに、リバトルが wordyだから、もう少し省略した方がよい、みたいなことを何度か言われた。今思い返すと、USにいたときは、僕の後ろにビッグショットのボスたちがいたから、短いリバトルで押し切れただけだった気がする。今回の経験を通して、リバトルは丁寧かつ慎重に書く必要があることを再認識。

 4. やっぱりリヴァイズはつらいなぁ、ということ。

 まぁ、今回の経験が非常によい経験だったし、ひとつのターニングポイントになった気がする。

 あと書き

今回の論文は、いろんなところにインパクトのある話だから、できるだけvisibilityを高めたいと考えていて、2021年1月から始まったNature系列のopen accessを利用しようとした。しかし、どこにも書いていないのだけれど、OAにできるのは、2021年1月以降に初(!)投稿したものだけが対象とのこと。色々粘ってなんとかできないか聞いたけれど、無理だった。残念。

what to say, how to sayとか、penetranceとpenetrationを間違った話

日本に戻って早くも5年半経ってる。Time flies like fruit flies.

この前 naïveの意味について書いたけれど、日本に戻って、学会やセミナーなどで非常に非常に気になる英語について一つだけ書いてみる。

多くの日本人が、”What to say” “How to say”を会話の途中に入れるけれど、あれは、和製英語で、USで言っている人を聞いたことがない。激しい人は、センテンスごとに、what to say, what to say, what to sayと言っていて、僕は、知らんがなそんな、とか思った記憶がある。あれって、間違いなく、日本人が他の日本人が使っているのを見てそれが伝染していっているんだと思う。あれは国際的な場ではやめた方がよいと思う。

 一般に、”filler words”として、well, you know, like, uhh, mmm みたいなのがある。USでは、やたら “you know”連発する留学生が多いのは有名。僕もどうしても癖というか沈黙をうめるために、filler wordsを使ってしまうんだけれど、一般にセミナーなどではfiller wordsはやめなさい、という指導がUSでは行われる。Filler wordsを使う = プロフェッショナルじゃない、みたいな印象がある。

発音のことを書いていて思い出した。これは誰かもどこかで書いていた気がするけれど(タモさん?)、日本人のほとんどが、コントロールっていう時に、前にアクセントを置くんだけれど、あれも日本以外で聞いたことがない。普通、後ろのロールにアクセントがある。あれも、日本人が日本人の英語を聞いてそれが伝染していっているんだと思う。

What to say, how to say, 日本版コントロールにしろ、日本にいると、間違いなく聞く機会が多いから、なんとなくそれが正しい、みたいな感じになってきて、無意識にも僕自身言ってしまいそうになる、

まあ、コントロール問題は、Japanishとしてオッケーだとは思うけれど、what to say, how to sayだけはやめた方がよいと強く思う。ああいうのってただの癖だから。

こういう指摘をすると、たまにUSにいた時は何も言われなかった、みたいな反応があるんだけれど、USでは人の発音について指摘するのはご法度というか、racist扱いされるからね。僕も親しいアメリカ人に発音について指摘してくれと何度も言ったんだけれど、よっぽどじゃないと、指摘してくれない。

 ちなみに、僕が人生で一番恥ずかしい言い間違いというか勘違いは、ポスドクの時にボスと会話している時に、遺伝学のpenetrance(表現系がどれくらいの頻度ででるか)を、ひたすらpenetrationと言っていたこと。ボスがpenetranceというたびに、僕は、”yeah, penetration is ---“と言って、それに対してまたボスが “penetranceがなんとかかんとか“と言って、僕がさらに “oh, yeah, penetration is ---.”と言っていた。横で聞いていた大学院生が、あれはヤバかったね、とめっちゃウケたとあとで教えてくれた。USでは日常用語でpenetrationというとほぼ性的な意味でしか使わないから。そんな僕の恥ずかしい間違いに対しても、ボスは、その言葉はおかしいよと決していうことなく、ただただ正しい言葉を使ってリスポンスを返してきただけだったのである。

あと、なんか書いていて思い出したけれど、「一時的な」の意味で、”transient”と言っていたら、仲の良い友達に「君はサイエンスやりすぎだ」と笑われたこともあった。Transientは日常的には付かなくて、フツー、temporaryなんだって。

 

衝撃の”air quotes”

僕は、USでPhDをとってポスドクをしたんだけれど、その間、某所にブログを書いていた。今読み返すと恥ずかしい文章満載だ。最近ふと当時の文章を読んでいて、自分でもこれは面白く書けていると思った文章があったので、当時のブログというか日記をそのまま抜粋する。

 2013・11・26(火)

 USで生活し始めて6年目だけけれど、今日、ようやく"air quotes"の本当の意味を理解した。

 話は10年前にさかのぼる。10年前の学部生の頃、サンディエゴあたりで数ヶ月ブラブラしていた。その時に、多くのカリフォルニアローカルの人が、会話の途中で、両手をピースして、頭の上あたりで、ニョキニョキしていた。当時は、あれは一体なんだろう、って思っていた。日本に戻ってから、まわりの友達に、メリケンの不審なピースニョキニョキを言い回っていたくらい、印象に残っていた。自分の中では、何かを強調する時に使っているんだろうな、みたいな感じでとらえていた。で、中西部のPhD時代は、まわりにピースニョキニョキをする人はほぼ皆無だった。唯一、ピースニョキニョキをするのは、コミッティのビルくらいだった。で、相変わらず、僕は、ピースニョキニョキは、「強調」なんだろう、って思っていた。

そして、昨年、カリフォルニアに10年ぶりにやって来たわけだけれど、相変わらず、カリフォルニアローカルな人は、ピースニョキニョキを会話中に多用していた。僕は、何故だか、ローカルな人がピースニョキニョキをするたびに、心の中で嬉しくなっていた。でも、相変わらず、僕は、ピースするのは、何かを強調しているだけなんだろう、って思っていた。今日までは。

 今日、天才が、例のごとく、ピースニョキニョキをした後、ひょんなことから、その意味を僕に説明し始めた。たぶん、僕がピースの意味をちゃんと捉えていないことに、気付いたんだろう。

 で、驚くことに、ピースニョキニョキは、ほとんど例外なく、皮肉をこめた反意語もしくは痛烈な批判、なんだそうだ。ピースニョキニョキは、実は、airquotesと呼ばれて、まさに、"-----"を指で表現ししているだけらしい。たとえば、He is "an expert (ニョキニョキ)"と言えば、意味は、「彼は、いわゆる専門家ぶっているド素人だ」となる。McDonald's burgers are "awesome(ニョキニョキ)"だと、「マクドナルドのバーガーは、グレイとにまずい」となる。これを知って、本当に衝撃をうけた。10年らいの疑問が解決された感じ。天才曰く、airquotesは、カリフォルニアローカルじゃなくて、西海岸と東海岸で使われる傾向にあるらしい。

 僕は、10年間、下の動画のジョーイ状態だった。

下のダンキンドーナツのCMは、一見意味不明だけれど、かなり奥が深い気もする。たぶん。言いたいのは、ダンキンドーナツ以外の"コーヒー(ニョキニョキ)"は、「コーヒーという名の不味い水」という皮肉なんだろう。ちなみに、僕はダンキンドーナツで、何回かコーヒーを買ったことがあるけれど、いつもその液体は、"coffee(ニョキニョキ)"だった。

何かairquotesの本当の意味を知って、興奮して、長々と書きすぎた。

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ちなみに、airquotesほど時間はかかっていないけれど、"naive"の意味をちゃんと理解するのも数年かかった。よく学会などで、「これは、naiveな質問なんだけれど、ーーーー」っていう質問をする人がいる。僕は、数年前まで、「あー、なかなか繊細で、微妙な質問なんだ」って思っていた。他にも、まわりのメリケンが、「昔は僕はnaiveなサイエンティストだった」みたいなことを言った時は、「あ、繊細なヤツだったんか」みたいに思っていた。だけれど、ある時、"naive"は、「繊細」とかじゃなくて、どっちかというと、「ものごとを知らない初心者」なんだと気付いた。そこに「繊細さ」の意味は、ほぼない(めちゃくちゃかすかにはあるかもしれないけれど)。

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今日も、ひたすら一日色々作業していた。日中はどうせあんまり論文は読める環境じゃないから、作業をするのが一番だ。夜に、隣りのラボの卵屋さんのDに、ザイスでZ-seriesをとる時に、レーザーとカメラの感度を補正する方法を教えてもらった。さすが、いつも卵を深度深くイメージングしているだけあって、色々知っていた。で、さっそくレーザーとカメラを補正しながら、イメージングすると、かなりイケテいる画像がとれた。これはナイスな方法教えてもらった。

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こんな感じでUS時代は定期的に文章を書いていたんだけれど、今ふりかえるとよくやっていたなぁと感じる。孤独だったんだろう。

上の naïveの補足だけれど、naïveは基本的にstupidを丁寧に言っているだけだから、本人がいってもよいけれど、他人が誰かに、”that’s a naïve question”とか言ったらいけない。それは侮辱になる。日本に戻ってきて気づいたんだけれど、時々、学会などで、日本語・英語ともに、それはナイーヴなクエスチョンですね、と言っているのを聞いたことがある。日本語ではナイーヴは許されるかもしれないけれど、英語では間違いなく相手に言ったら侮辱レベルになる言葉っすよ。

2018年春

まったくもって自分でも信じられないんだけれど、最後にこのウェブサイトを更新してから約3年経ってしまった。ラボ内外のいろんな人から、ラボサイト更新してくだいよー、と言われてきたんだけれど、時間的な余裕、精神的な余裕がなく、放置プレイになってしまった。つまるところ、意識はラボ内の研究に向いていて、ウェブサイトをアップデートするどころじゃなかったのだ。最近ちょっとだけ精神的な余裕が生まれてきたので、徐々にウェブサイトをアップデートしていきます。思えばこの3年でいろんなことがおこったですよ。ふー。

従来、”Blog”っていうカテゴリーで思うことをちょこちょこ書いていたんだけれど、そっちは写真メインにした “lab life”にして、こっちで、日本語で思うことを非定期的に書いていく。

このウェブサイトの更新が止まったのは、2018年春なんだけれど、その頃は僕にとって激動の時期で、忙しすぎて、あんまり記憶がない。。。1月末に人生初の子供が生まれて、それで生活スタイルが結構激変。それまでは夜遅くまで実験したりしていたんだけれど、2018年の春からは基本的に保育園の送迎にあわせた生活に。。。人って変わるもんですね、と自分でも思う。

4月には4人の修士の学生さんが入ってくれて、ドクターの学生も3人いて、結構いろいろと大変だった。何か面白いプロジェクトを何か考えなきゃ、みたいな感じで、でも深く考える時間もあんまりない、みたいな精神状況だった気がする。

この時期に、僕は本当に忙しいと感じていて、本当に忙しいから構わないでしょ的なメンタリティで、ある種の忙しさとか不機嫌さが外に出てしまっていた。自分でもわかっていたんだけれど、睡眠時間も足りてないし、仕方ないでしょ、的に思っていた。でも、ある時、ある人に、そういう態度はよくない、と言われて、それが結構心にガツンと響いた。あ、自分はもう、一人のポスドクじゃなくて、管理職だから、そういうのも気にしないといけないんだ、と心を改めた瞬間だった。